快食快便は健康の証である。毎日のことであり、この歯車が狂うと生命は危機に陥る。解決されなければ人生に明日はない。
75歳、男性。日頃から便秘気味であったが、この10日間排便がなく腹が張り、腹痛のため苦しがって来院した。腹部エックス線写真では大腸ガスが増加していた。直腸診(肛門に指を挿入し直腸を診察する)で、肛門の近くに大きな便塊が固く触れた。便が詰まったための便通途絶であった。便塊を手でかき出してから浣腸した。大量の排便があり、症状は消失した。 高齢者には便秘が多い。運動不足で腹筋が弱くなり、いきむ力も弱く、腸管の血行や、蠕動(ぜんどう)運動も悪い。そのうえ、この患者さんは定年後に老人性うつ病が発症し、抗うつ薬を常用していた。抗うつ薬や抗精神病薬の多くは抗コリン作用を有し(副交感神経抑制)、腸の蠕動運動が弱まっていたのである。
50歳、男性。半年前から便が細いことを自覚していたが、仕事が多忙で放置していた。便に血が混じるようになり驚いて来院した。最近腹が張って食欲も減退していた。注腸検査(肛門から造影剤を注入して大腸を調べる)と大腸内視鏡検査でS状結腸癌(がん)による狭窄と判明し、S状結腸の切除術を行った。本例はリンパ節転移があったものの、肝臓などに転移がなかったため、術後3年経った現在も健在である。直腸癌、S状結腸癌にみられる特有の症状は本例にみられた便の狭小化であるが、ころころしたウサギの糞状の便がみられる場合も多い。健康人の便はバナナ状の太さを示すものである。
便の性状は健康のバロメーターである。便の色は肝臓から排泄される胆汁中ビリルビンが腸内細菌で還元され、普通は黄褐色を示す。便の停滞時間が短ければ黄土色、長いとこげ茶色となる。胃・十二指腸潰瘍などの出血では黒色便(タール便)となる。閉塞性黄疸(おうだん)では胆汁が排泄されないため灰白色便となる。大腸癌を疑わなければならないのは血便である。
脂肪や肉食の多い欧米型の食生活では大腸での便停滞時間が長くなり、大腸癌が発生しやすい。従来、日本人は欧米人に比べて食物繊維(野菜など)の摂取量が多く、通過時間は短くなり、大腸癌は発生しにくかった。食物繊維は消化酵素で消化されないので、そのまま便の素材となる。便の量が増え、蠕動が高まる。
女性には便秘症の方が多い。女性は卵胞ホルモン(月経から排卵まで)、黄体ホルモン(排卵から月経が始まるまで)の働きを受ける。黄体ホルモンには腸の蠕動運動を抑制する作用があるため、便秘に傾きやすいのである。妊娠すると黄体ホルモンの作用は増大するので、さらに便秘がちとなる。
これからの人生、大腸癌発生のリスクを高める高脂肪の食生活を避け、繊維の多い食事を摂取し、快食快便の長寿人生を楽しみたい。