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<特別寄稿> 心筋梗塞と救命の連鎖
<順天堂大学循環器内科教授 代田浩之>


   読者の皆さんの中にも、身近で「えっ、あの人が心筋梗塞(こうそく)?」と驚いた経験をされた方がいらっしゃると思う。それまで全く健康であった、あるいは少なくともそう見えていた人が、突然に発症するのがこの病気の特徴である。命に関わるこの病気は働き盛りの中高年男性を襲うことが多く社会的にも損失が大きい。どうしてこの病気には前兆が少ない、あるいは全くないのだろうか?

  心筋梗塞は心臓の栄養血管である冠状動脈の血流が突然に遮断されることによって心臓の筋肉が壊死(死んでしまうこと)を起こすことをいう。一方、関連した病気で狭心症がある。狭心症では、血流が一時的に足りなくなることによって心臓の筋肉が酸素不足になり、一過性に胸や肩の鈍痛と圧迫感を自覚する。以前は冠状動脈に強い狭窄(きょうさく)病変があると狭心症が起こり、それが詰まると心筋梗塞になるので、心筋梗塞には前兆として狭心症があるものと考えられていた。実際には発症前に狭心症を自覚する人は心筋梗塞の半分にすぎない。残りの半分はまさに青天のへきれきで発症するのである。

 どうしてそのようなことが起こるかは最近になってわかってきた。心筋梗塞は動脈硬化がそれほど内腔を狭めていない時期に、血液の塊が突然血管を閉塞して起こることが多い。そのため、狭心症状は先行しないのである。何故そこに血液の塊ができるかについても精力的に研究が進められ、動脈硬化巣に小さな傷ができることが、本来は血管の中ではできないはずの血栓(血液の塊)を作るきっかけになっていることが示されている。

 さて、このように心筋梗塞は冠動脈がつまって起こるから、心臓の筋肉が死んでしまう前にそこを再開通させることが出来れば、傷は小さくてすむ。事実、発症して早期に循環器専門医のいる病院で、カテーテル治療をすることができれば命の危険はかなり少なくなる。30年前には20〜30%であった急性期病院内死亡率は、現在は5%前後である。しかし問題はそれだけでは解決されていない。心筋梗塞による死亡の半分は病院に着く前に起こることからである。心筋梗塞発症後四時間以内がもっとも致死性の不整脈が起こりやすいとされている。これには病院の医師では対応できない。まずは家族や周囲にいる人たちの救命措置が必要である。

 最近、街中に見かけるようになったAED(自動体外式除細動器)もそのための装置である。周囲の一般の人たちの一時救命処置(Basic Life Support=BLS)とAEDがこのような発症早期の心筋梗塞の人たちを救う。そして救急車、病院の救急室へと救命活動はつながっていく。いわゆる救命の連鎖である。今後、わが国の心筋梗塞は増加することが予想されている。その中で一般の方々を巻き込んだ救命活動であるこの救命の連鎖の役割は大きい。

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 代田先生は、虎の門病院、米国メイヨークリニックを経て順天堂大学教授、ハートセンター長を兼務され、我が国における冠動脈疾患の専門家として大変高名な先生です。


 (別府 倫兄)
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